Near Death Experience: 弘田 佳孝 インタビュー下 |
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スーパーファミコンの時代にスクウェアのサウンド・エフェクト担当としてファイナルファンタジーVI、 ライブ・ア・ライブ、ファイナルファンタジー VIIそしてパラサイト・イヴ などを手がけたのが 弘田佳孝 のキャリアのはじめだった。現在、弘田氏はTwinTail Studioを運営。最近では、片霧烈火をメイン・シンガーとしたボーカル・コンセプト アルバム「キネマインザホール」を発表。Square Havenでは、ゲーム業界の先端で著しい貢献をし続ける音楽家、弘田氏とお話をする機会をつかんだ。 |
弘田 佳孝インタビュー上. This interview is available in English 英語で...
スーパーファミコンの時代にスクウェアのサウンド・エフェクト担当としてファイナルファンタジーVI、 ライブ・ア・ライブ、ファイナルファンタジー VIIそしてパラサイト・イヴ などを手がけたのが 弘田佳孝 のキャリアのはじめだった。その後、Sacnothのクーデルカ制作チームに加わり、サウンド・デザイナーとして活躍し続けた。 彼がゲームに関わる作曲家としてデビューしたのはスクウェアを後にした1998年、 光田康典と合作したボンバーマン 64とバイオハザード 2 ラジオドラマである。また、弘田氏は Nautilusのシャドウハーツ全三本の音楽を担当し、「Near Death Experience」と題したアレンジアルバムも発表している。そして、 西浦智仁氏の音楽をリミックスした「ローグギャラクシー ・プレミアムアレンジ」で、世界的に著名なサウンド・クリエーターの一人として参加している。
現在、弘田氏はTwinTail Studioを運営。最近では、片霧烈火をメイン・シンガーとしたボーカル・コンセプト アルバム「キネマインザホール」を発表。Square Havenでは、ゲーム業界の先端で著しい貢献をし続ける音楽家、弘田氏とお話をする機会をつかんだ。
Square Haven: 様々なタイプの音楽がシャドウハーツのサントラに含まれていますね。中でも、「シャドウハーツ・フロム・ザ・ニューワールド」はネイティブ・アメリカンの音楽のスタイルをとっているようです。そのようなタイプの音楽を基につくるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
弘田佳考: きっかけについて「シャドウハーツ・フロム・ザ・ ニューワールド」サウンドトラックのライナーノーツに書いた事と同じ ですが、こちらでも話したいと思います。
この開発が始まった時、私は作曲の最初の糸口を探して、今作の冒険の 舞台となるアメリカ大陸の文化を勉強しました。特に先住民族の歴史を。
そして彼らの伝統や教えには、私たち現代人が見失った、人間としての 心のあり方が描かれている事を知ったのです。
大地と共にあること 自然の教えを読み解くこと 変化を受け入れるこ と 今を信じれば、自分の姿が見えて来ること 「ちから」とは自分の 生き方が「かたち」になったもの
彼らは、民族音楽とエレクトリック・ミュージックの接点を探し続ける 私に、沢山のヒントを与えてくれました。
「大地と太陽があって 自分がある 光りなき地には死しか残らない 自然があって 自分があることを意識せよ」というネイティブ・アメリ カンの聖なる言葉に触れ、すべてのものはつながっている、と感じた瞬 間、「シャドウハーツ・フロム・ザ・ニューワールド」における、古 代~現代の楽器が渾然一体となった、パワフルな音楽のイメージが心に 浮かんできたのです。
Haven: 「シャドウハーツ: near death experience arrangetracks」はどういうきっかけでつくることになったのでしょいうか?また、そのシリーズで自分の作品をリミックスすることにあたってどんなゴールがあったのでしょうか?
弘田: このアルバムは、Shadow Heartsシリーズの楽 曲から「ゲーム演出の為のBGM」という機能を取り去って、自由 にイマジネーションを拡げた時に、そこから生まれるものがどんなもの なのかを知りたくて、制作を始めました。
タイトルの「near death experience(臨死体験)」は、今我々 の住んでいる世界ではないところ、異界で見聞したものというイメージ で名付けました。
参加アレンジャー達(Yasunori Mitsuda, Kenji Ito, Tomoko Imoto)は、厳しい時間制限の中、それぞれの感性で素晴らしい仕事を してくれました。私は彼らと一緒に仕事できた事を誇りに思っています。
私自身のリミックスについてですが、私はこのアルバムのレコーディン グに入る直前、日本の南端、沖縄県の石垣島へ旅をしました。そして石 垣島や周辺諸島の奥深き地にある御嶽(うたき)という聖域、神殿を訪 れました。
南国の強い陽射しの中で、森をわたる風に目を閉じて身を任せ、自然に 宿る神々に思いを寄せると、深く癒され、心が安らぐ気がしました。
私はこの旅の感動から、時間軸が存在しないような、始まりも終わりも 無いようなサウンドにしたいと思いました。
「Ala Of Sacrum - Sprit of the Air」「“球 -qu-” - Sacred Shrine edit」などは、幻想的な絵画を描くようにして作ろうと 試みた曲です。これらの曲は、聴いた人が眠る前などのまどろみの中 で、自由にイメージを描けるようにと思いながら作りました。
Near Death Experience, Shadow Hearts Arrangetracks, "near death experience"
Haven: "ICARO"という曲はShadowHeartsすべてのバージョンで 流れているのですが、すべて驚くほどちがうアレンジメント に なっていますよね。この音楽的テーマの発達過程、またこのシリーズに おいて何をこの音楽から見出そうとしたのか、教えていただけないで しょうか?
弘田: そうですね。"ICARO"に関してはとても多くの アレンジ曲を作りました。この曲から、私が見いだそうとしたもの、そ れはShadow Heartsの世界そのものだったのかもしれません。
私が"ICARO"を作曲したのは、開発のかなり初期段階でした。デ モムービーにも使える、短くてインパクトのある曲が必要になり、そこ で多重コーラスと金属製パーカッションだけの、原始的で魔術的な 曲、"ICARO"を作曲したのです。
Shadow Heartsシリーズの音楽の中で、"ICARO"は特別な意味を 持っています。
シリーズ1作目、冒頭の大陸鉄道のシーンで、主人公が運命の女 性と初めて遭遇するのですが、ここに"ICARO"を初めて使用する 事で、二人を中心にした物語がここから始まる、という意味合いを持た せる事ができると考えました。このシーンには、勇壮なだけの音楽や、 ただの緊迫したBGMでは、きっと物語に深みが出なかったと思わ れます。
また、その後の重要なシーンで、音楽を"ICARO"へと切り替える 事によって、このシーンが物語の根幹に関わるという事をプレーヤーに 対し、シンボルマークのように 知らせる事が出来るのです。そ れを繰り返す事で、イメージの刷り込みはさらに強固になります。
物語の中では、様々な形の重要なシーンがありますから、多様なアレン ジが必要になりました。
"ICARO"のメロディのモチーフは、その多様なアレンジを想定して、ご くシンプルな音の連結で構成されています。その根幹を成すのは、 ABDC#ABという、たったこれだけの音符の連なりです。
私は数年に渡り、繰り返した"ICARO"のアレンジ作業から、多く の技術を学びました。この曲によって、私自身の音楽的能力も、成長さ せてもらったと思っています。
Haven: 「ローグギャラクシー ・プレミアムアレンジ」では、光田康典、伊藤賢治、相原隆行、下村陽子、そして桜庭統と、顕著なゲーム作曲家の方々の一員として弘田さんは参加されました。弘田さんがリミックスした西浦智仁氏の「Enormous Threat」には、弘田さん独特のオリジナル曲に対するのとらえ方 が見られますよね。このプロジェクトに参加されたきっかけは?また、弘田スタイルという物のどんな部分をその曲をアレンジする際に使おうとおもわれたのでしょうか?
弘田: 私がこのアルバムに参加したきっかけは、レコード会 社から制作依頼でした。私のスタイルで存分に個性を出して欲しいとの ことで、面白そうなので引き受けました。
ディレクターからアレンジする候補曲を、曲名、使用シーンを伏せて 2曲提示され、どちらかを選んでほしいと言われました。両方、魅力的 な曲だったのですが私のアレンジでよりヘヴィでラウドなサウンドにな りそうな曲を選びました。それがあのラストバトルの曲だったのです。
アレンジのアイデアを考えていると、どんなアプローチでアレンジして も面白くなりそうで、方向を定めるまでが結構時間かかりました。
「ENORMOUS THREAT~巨大な脅威」という曲名を知ってから、急 にイメージが湧いて来たので、一気に作業を始めました。
もっと迫り来る感じで、リズムとリフレインを強調して。女性のパワフ ルなコーラスが欲しい。ベースは固い音がいい。大サビに新しいメロ ディが欲しい。西浦智仁さんのイメージから、さらに私なりに広げた解 釈で、音を紡いで行きました。
楽器やコーラスのレコーディングは、私の中でイメージが明確になって いたので、かなりスムーズに進みました。〆切間際の数日は MIX、トラックダウンの作業を徹夜で続け、やっと満足いくアレンジが 完成しました。
Haven: 弘田さん、この度は忙しい中時間をさいてもらって、ゲーム業 界での興味深い背景をこのインタビューで描いていただき誠にありがと うございます。最新のすばらしいアルバム「Kinema in the Hall」に引き続いてこれからの活躍を期待しております。
Rogue Galaxy Premium Arrange, Enormous Threat
Haven: キネマインザホールで片霧さんとのコラ ボをされていますね。このコラボはどういう風にうまれたのですか?
弘田: レコード・レーベル(TEAM Entertainment,Inc.)の社長から彼女を紹介されました。彼女と私とで コラボレートしたアルバムをリリースしないか、というオファーがあっ たのです。
彼女は、TVアニメ「ひぐらしのなく頃に」ED曲や、 PS2ゲーム「アトリエ シリーズ」等、数々のボーカル曲を担当し ていて、私も名前を知っていました。
彼女の自主制作CDを聴き、幅広い表現力と優れた歌唱力に驚きま した。また彼女のダークファンタジーな歌詞は、私の音楽に非常にマッ チすると思いました。
彼女との打ち合わせは非常にスムーズでした。あまり話し合わなくて も、お互い共有する感覚がとても多かったのです。レコーディングに 入ってからは、言葉による打ち合わせはほとんど必要とせず、音楽を通 して語り合う事ができました。これはとても素晴らしい経験でした。
キネマ・イン・ザ・ホール , "悪意の穴を見た男"
Haven: このアルバムで、片 霧さんと一緒に取り組む上で、アルバムや楽曲の目指す方向性はあった のでしょうか?
弘田: 最初の打ち合わせで、お互いに得意な表現手段であ る“ダークファンタジーの世界”を思いきり詰め込んだアルバムにしよ う、という話をしました。それから様々な曲と物語を入れたいので、 ショートムービー集のようなものにしたいということになりました。冒 頭は、主人公が異世界へと迷い込む描写が必要でした。「不思議の国の アリス」の「うさぎの穴」のように…
Haven: 「不思議の国の アリス」の「うさぎの穴」?
弘田: その打ち合わせからの帰り道、彼女がテーマのことを考えながら歩いて いると、フッと路地裏が目に入り、そこで人が這いつくばってようやく 通れるくらいの小さな扉を見つけたそうです。
彼女は、その景色がとても気になり写真を撮り、再び家で写真を眺めな がら思いついたのが、
『時代は現代。主人公の男性がふと迷い込んでしまった都会の路地裏で 見つけたのは、小さな扉。好奇心を起こして潜り抜けたその先にあった のは、謎の少女が管理する謎の映画館「キネマ・イン・ザ・ホール (Kinema in the hall)」だった。そこで主人公は、少女からい くつかのショート・ムービーを見せられることとなる。「穴」にまつわ るそれらの話はどれも、人の持つ狂気と、その哀れな末路を描いたもの だった』
という物語の概要だったのです。Kinema in the hallは、本当は the hallではなく、the holeなのです。
私は、その着想から想像を拡げていき、作曲しました。
Haven: 弘田様は TTSを設立されていま すね。スタジオを始めたきっかけ、どうやって始めたかをおしえてくだ さい。そして今現在取り組んでいるプロジェクトはありますか?
弘田: TTS Productsは、私の仕事を管理する個人的な 事務所で、TwinTail Studioは、私のプライベート・スタジオで す。まとめてTTSと呼んでいます。少数の有能な事務スタッフ が、私をサポートしてくれています。
私の作曲スタイルは、一般的な作曲方法と少々異なる上に、ほとんど全 ての作業を自分で細かく行なう必要があります。私の作業がしやすいよ うに考えたのが、このスタジオです。まだ完璧ではなく、進化させて行 きたいと考えています。私の音楽活動とともにTTSは設立された と言えます。
まだ公表できないのですが、今現在、取り組んでいるプロジェクトは、 5つあります。ゲーム制作と、何人かのシンガーのアルバム制作に参加 しています。楽しみにしていて下さい。
Kinema以降で、公表可能な作品は… みとせのりこさんのソロアルバム 「-cotton-」に参加して、日本の古い名曲をElectronica Soundにアレンジしました。片霧烈火さんの新譜「晴れやかなるソラの 行方」にも作曲で参加しています。それからSQUARE ENIXと、 Nintendoから、それぞれ音楽制作に関わったDSのソフトがまもな く発売されます。
また7/7、東京で開催されるゲームミュージックのフェスティバ ル「EXTRA ~HYPER GAME MUSIC EVENT 2007」に作曲家・ 伊藤賢治氏のバンドでベーシストとして参加します。10月には、 芸術大学の学園祭で、片霧烈火さんとライブをする予定です。
Haven: 弘田さんが以前関わっていたSquare Enix, Nintendo DSのゲームについて少し話していただけないでしょうか?
弘田: 株式会社スクウェア・エニックスの企画・発売による「花咲くDS ガーデニングLife」(ニンテンドーDS)というソフトが 7/5に日本で発売されます。ギターソロ3曲以外の音楽・サウンド 制作をしています。
「花咲くDSガーデニングLife」はタッチペンなどを用い、 ガーデニングのコツや楽しさを学ぶことが出来るソフトです。本作はス クウェアエニックスのニンテンドーDS向け新シリーズ 「DS:Style」としての発売です。「DS: Style」は、「豊かで知的な遊びのスタイルを提供する」をコンセプト にしたDS用教養ソフトシリーズです。
それから任天堂より発売されるニンテンドーDS用アクションゲー ムソフト「Donkey Kong King of Swing」のBGMに5 曲参加しました。日本では8/9に「ドンキーコングジャングルク ライマー」というタイトルで発売されます。2006年、アメリカ・ ロサンゼルス・コンベンションセンターにて開催されたイベント、 E3において発表されていたタイトルです。
他にも数タイトルの開発に関わっています。タイトルの中には、 RPGも含まれていますが、リリースはまだ先です。
Haven: 弘田さん、この度は忙しい中時間をさいてもらって、ゲーム業界での興味深い背景をこのインタビューで描いていただき誠にありがとうございます。最新のすばらしいアルバム「Kinema in the Hall」に引き続いてこれからの活躍を期待しております。
弘田: ありがとう!これからも応援よろしくです。
インタビュー by Jeriaska. 翻訳:山本貴洋, Kaori Komuro. Yoshitaka Hirota official website: Twintail Studio.
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