Near Death Experience: 弘田 佳孝インタビュー上 |
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スーパーファミコンの時代にスクウェアのサウンド・エフェクト担 当としてファイナルファンタジーVI、 ライブ・ア・ラ イブ、ファイナルファンタジー VIIそしてパラサイト・イ ヴ などを手がけたのが 弘田佳孝 のキャリアのはじめ だった。現在、弘田氏はTwinTail Studioを運営。最近では、片霧烈 火をメイン・シンガーとしたボーカル・コンセプト アルバム 「キネマインザホール」を発表。Square Havenでは、ゲーム業界 の先端で著しい貢献をし続ける音楽家、弘田氏とお話をする機会をつか んだ。 |
This interview is available in English 英語で...
スーパーファミコンの時代にスクウェアのサウンド・エフェクト担
当としてファイナルファンタジーVI、 ライブ・ア・ラ
イブ、ファイナルファンタジー VIIそしてパラサイト・イ
ヴ などを手がけたのが 弘田佳孝 のキャリアのはじめ
だった。その後、Sacnothのクーデルカ制作チームに加わ
り、サウンド・デザイナーとして活躍し続けた。 彼が
ゲームに関わる作曲家としてデビューしたのはスクウェアを後にした
1998年、 光田康典と合作したボンバーマン 64とバイ
オハザード 2 ラジオドラマである。また、弘田氏は
Nautilusのシャドウハーツ全三本の音楽を担当し、「Near
Death Experience」と題したアレンジアルバムも発表している。そ
して、 西浦智仁氏の音楽をリミックスした「ローグギャラク
シー ・プレミアムアレンジ」で、世界的に著名なサウンド・ク
リエーターの一人として参加している。
現在、弘田氏はTwinTail Studioを運営。最近では、片霧烈 火をメイン・シンガーとしたボーカル・コンセプト アルバム 「キネマインザホール」を発表。Square Havenでは、ゲーム業界 の先端で著しい貢献をし続ける音楽家、弘田氏とお話をする機会をつか んだ。
Square Haven: 弘田様。今回は私達の質問に答えて頂きありがと うございました.
弘田 佳孝: こちらこそ、ありがとう。私の音楽が様々な 国で聴かれている事を光栄に思います。この取材によって、皆さんが作 品をもっと楽しんで頂けると私も嬉しいです。
Haven: まず、スクウェアで、サウンド・デザイナーとして このゲーム業界で働き始めたきっかけについてお話してもらえませんか?
弘田: 私が20歳の頃、金が無くて困っていた 時に、友人である作曲家・光田氏に誘われて始めました。あまり仕事も せずブラブラしていましたので、ちょうど助かりました。
Haven: 弘田さんはファイナルファンタジーVI、スーパーマリオ RPG、ライブ・ア・ライブ、クロノ・トリガー など、スクウェア で数多くのゲームの開発に携わっていたわけですが、スーパーファミコ ンというゲーム機に対する音響制作の工程で困難だったこと、また は大 変だったことがありましたか?
弘田: 非常に限られた容量の中で、様々な音響を作らなければな りませんでした。単純なサイン波とノイズから、ガラスの割れる音を 作ったり、川のせせらぎを再現したりしました。それらは困難でした が、音という物理現象を理解する上で興味深い作業でした。
FFVIの最初の方で、ティナが獣のような声で叫ぶシーンがあるのです が、あれはサイン波とノイズでのmodulationの実験中に出来たも のです。それは召還獣の哭き声などに発展して行きました。クロノトリ ガーで作ったボコーダーを通したようなロボの声の制作技法も、後に 様々なサウンド・エフェクトへと発展していきました。当時、研究した 様々な内蔵音源での技術の集大成は、FFの召還魔法のサウンドに 凝縮されています。
技術的な問題よりも困難だったのは、制作スタッフからの「空から静か に雪が降ってくる音」といった抽象的な注文を受けて音作りしたことで す。抽象的なイメージからサウンドを構築する技術は今の自分の作曲ス タイルにもかなりプラスになっています。
Haven: プレイステーションの時代、弘田さんはスクウェアでファイナルファンタジーVII、 パラサイト・イヴ、and フロントミッション2に貢献されていましたよねプレイステーションのゲーム機では音楽ファイルの容量が拡大されたのですが、音楽的表現も同時に拡大することができたのでしょうか?また、ちがうコンピューター機器への転換はどうでしたか?
弘田: 容量が増えても残念ながら楽にならず、むしろ作業量は増 えました。FFVIIの最高召喚獣ナイツオブラウンド(Knights of round)の内蔵音源での複雑な音響制作には1週間近くもかかりま した。もちろん波形容量が増えたおかげで表現の幅は格段に広がりまし たが。
映像表現がリアルになって行くにつれ、音響表現もリアルに、より細密 にしていかなければなりませんでしたが、これはPS3など現行の ゲーム機での開発にも当てはまりますよね。
環境音や現実音にしてもどの音を中心に表現をすればよいのかに悩みま した。走行している車のエンジン音を作ったなら、タイヤが地を蹴る音 も必要で、車体が軋む音も必要です。そのシーンが不安感をあおるもの なら、低く不協和音を鳴らすべきかもしれないし、厳しい寒さなら、冷 たい風を切る音も必要です。
容量が増えたと言っても、自然界のものを100%に近く再現する 事は不可能だったので、そのシーン1つ1つを象徴する、ま たはシナリオの展開を暗喩させるような音を作って行きました。作り方 によっては車の走行音1つでも、能天気な表現や、陰鬱な表現も 可能になるのです。
Shadow Hearts Original Soundtrack + 1, "Main Theme Beat Arrange"
Haven: 弘田さんがサウンド・デザイナーとして働いていた時、夜 はパンクバンドのメンバーとして演奏し、ナイト・クラブでDJと して働きながら二重の生活をしていたと聞きました。それらの経験は 日々のゲーム音楽への作曲の仕事とどんな面で違いましたか?
弘田: ゲームの仕事に限りませんが、作曲やサウンド・デザイン などのデスクワークは、長時間の集中力を必要とし、ピアノやキーボー ドの前に座り、何十時間もその姿勢を保たなければなりません。
ライブでは身体をめいっぱい動かしますので、デスクワークで溜まった ストレスの発散になります。クラブ・パーティーも他人がDJをし ている間はフロアで踊ったり、ビールを飲んだりできますので楽しいで す。
ライブは成功、不成功に関わらず、必ず時間がくれば終わります。しか し作曲は、いくら時間が経っても曲が完成しない限り私の気は休まりま せん… これが作曲のつらいところです。
Haven: クーデルカはシャドウハーツシリーズへの精神的先駆者的な存在であるように感じられます。また、その作品は作曲家菊田裕樹氏が監督でしたよね。弘田さんはどのようにこの クーデルカという難しいプロジェクトに立ち向かわれたのでしょうか?また、その経験はシャドウハーツ全三本シリーズにどんな影響をあたえたのでしょうか?
弘田: クーデルカでのサウンド・エフェクト制作では、ゴシック ホラーの世界を表現しようと試みました。音による恐怖感とリアル感を 追求しました。肉屋で仕入れた大量の骨をばらまいて、その上を歩く音 を録音したり、モンスターの触手が風を切る音ひとつにしても、こだ わって録音、制作しました。
シャドウハーツ・シリーズはクーデルカのような、ゴシックホラーでは ありませんが、心の闇を描いたり、じわじわと感じる恐怖感の表現など は継承しています。たとえば1作目の人食い村や、精神病院など の気味の悪さ、From the new worldの劇場など。しかし自分とし ては全く別のゲームとして捉えて作り始めました。
シャドウハーツ・フロム・ザ・ニューワールド, "The Mother Earth"
Haven: 弘田さんにとって最初のゲーム関係のサントラのお仕事はボンバーマン 64、バイオハザード 2ラジオドラマ、そしてシャドウハーツであり、また光田康典氏と一緒にお仕事をなさっていましたよね。光田さんと一緒にはたらくようになったきっかけは何ですか?またどのように一緒にはたらいていたのでしょうか?
弘田: きっかけは覚えていませんが…。学生の頃からの友人なの で、一緒に作業するのがとても楽しかったです。どのように働いたかと いうと、とにかくお互いの音楽を楽しみながら作業していたと思います。
仕事仲間でもありますが、どちらかというと親しい友人としてよく一緒 にお酒を飲んだり、遊んだりしていましたね。たまたま、お互いが音楽 を仕事に選んでいたという事です。最近は、お互いに忙しく、なかなか 会って何かする機会がありませんが、これではつまらないなと思ってい ます。
弘田 佳孝インタビュー下
翻訳:山本貴洋
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